はまな調息堂

はまな調息堂ウェブログ:日々の堂主

調息整体指導室/はまな調息堂の堂主が、
からだを整えるということや日々の活動について
考えたことを綴ります

手ヲモッテセズ、足ヲモッテセズ

調息整体法創始者、岡島瑞徳が最後に師事した振武舘黒田道場の黒田鉄山先生の御著書で紹介されている言葉で、ある武術の伝書に書かれているものだそうです。
意味は

「手を使うな!!、足を使うな!!」

しかしそれはどうやってするの???
さて、どうするのでしょう???

そこらへんが古のお侍さんが命をかけて修得しようとした技であり術であるのでしょう。

閑話休題

調息整体の初等講座ではまず初めにお腹を押さえる技術を訓練するのですが、そこでは呼吸に沿うこと、手を消すこと、など整体操法の技術に使われる体の動かし方の根本的な考え方を知ることができます。特に一番初めに教わる「お臍ののの字操法」では「手、足を使わずに押さえる」という整体を整体ならしめている技術の一端が学べるようになっています。

「仰向けに寝ている受け手の横に正座して、受け手のお臍の周囲の六点を腕を動かさないで吐く息に沿いながら腰を浮かして体の移動で押さえる。」

という技術で、見た目は最初に習う技術でもあり簡単に見えます。
しかし岡島の師匠である野口晴哉師はこの技術を、

「この操法は*足が浮いているから*、いくらやっても足が疲れることがない」

と仰っていたそうで、本来は「足に体重をかけずに腰を浮かす」ことが必要とされる技術なのだそうです。

しかし、「足に体重をかけずに腰を浮かす」ってどうやったらできるものなのでしょうか??
野口系の指導者の中でこの問いに答えられる方はおそらく現時点ではおられないと思います。類似した技術じたいは世界のどこかにあると思いますが。

最初に習う基礎中の基礎の技術が実はとんでもなく難しい!!!

野口系整体にはこういった技術が多数出てきますし、そしてまだまだどうやったらそれができるのか解明されていない技術が他にも大量にあります。
この整体を修行する上でこういった技術の謎を解き明かし再現する。いつかそのレベルまでたどり着きたい。堂主人の目指すところです。

まだぼくが調息整体と出会う前、学生で大阪阿倍野の界隈をただぶらぶらしていた90年代、身体操作法を研究する人たちの間ではある一大転換が起こっていました。
それは「古武術」研究家の甲野善紀氏が発表した「井桁術理」が引き起こした、西洋で確立された運動法とは違う日本古来の身体操作法を見直そうという身体操作のルネッサンス的な流れです。

それ以前にも気功や中国武術ブームなどがあり老人が若者を翻弄したり触れただけで人を飛ばしたりなど、東洋の世界には「筋力」など西洋の身体操作の理論だけでは説明しきれない技術があるというのは知られていたものの そういったものに対する説明は現代科学で証明されていない「神秘の力による」などのオカルト的なものばかりでした。

そんな中、甲野氏の唱えた井桁術理は体の「動かし方」として日本の伝統的な身体操作法をとらえ直した画期的なもので、そしてこの術理の発表以降、様々な人達が日本人の伝統的な体の使い方を研究し持論を展開するようになります。

今回紹介する伊藤昇さんはそういった研究者の一人で独自の理論から作り上げた「伊藤式胴体トレーニング」を提唱され普及された方です。

このトレーニングは
<人間の運動能力の源となっているのは胴体力であるという。 運動能力の高さは、胴体を充分に使えるかどうかにかかっている。
胴体力は次の三つの基本動作に集約される。
伸ばす・縮める=身体の敏捷性を生み出す、
丸める・反る=身体のしなやかさを生み出す、
捻る=身体のパワーを生み出す。
伊藤式胴体トレーニングではこれらの基本動作を繰り返すことで運動能力の質を向上させることを目指す。
伊藤は象徴的な言葉として、「腕も胴体から出ている。相手の腕がいくら太くても、こちらの胴体の方が太いでしょ」と残している。>(Wikipediaより引用)

という理論に基づくもので(彼は野口晴哉師の弟子であった沖ヨガの沖正弘さんの高弟であったこともありこの理論は調息整体ともリンクしています。)、この本が出された当時、歌舞伎の人間国宝である坂東玉三郎さんなどが実践しTVなどでも紹介されかなり注目されていたのですが、伊藤さんは2002年にご病気でこの世を去られてしまいました。

そんな短い生涯の中で書かれた数少ない著作の一つがこの「スーパーボディを読む」です。

この本はジャンルを問わず世界のトップパフォーマーの動きを伊藤式の理論で分析するという面白い試みをしたもので、とくに20世紀最高とも言われるピアニスト、ウラディミール・ホロヴィッツと異端の天才、グレン・グールドの共通項を「座り方」から論じグールドの身体の歪みから彼の演奏の癖を見抜くところなどは、鍼灸学生だったぼくにとってこんな捉え方があるんだと感動しました。

ぼく自身はこの後に岡島瑞徳と身体操作の達人ともいうべき師に弟子入りすることになり伊藤式胴体トレーニングの研究をすることは無かったのですが、人の関わるあらゆるものを「それをなした人の体のあり方で観る。」という視点をこの本から学んだことが一生の財産になりました。

伊藤さんがお亡くなりになられたことでメディアの露出がなくなり注目されることもなくなってしまいました。もしご存命だったらと思うと日本のスポーツ界で革命が起こっていたかも知れず残念でなりません。

ウラディミール・ホロヴィッツ

グレン・グールド

坂東玉三郎