はまな調息堂

はまな調息堂ウェブログ:日々の堂主

調息整体指導室/はまな調息堂の堂主が、
からだを整えるということや日々の活動について
考えたことを綴ります

2017年09月26日:

2000年頃、2年連続で中心感覚研究会関西支部主催で行われた心道流空手道宇城憲治氏の講習会に参加したことがある。岡島瑞徳先生が雑誌「秘伝」で対談し交流が始まったことで実現した企画だ。

宇城氏も初めての一般向けの講習会だったらしく、最初は緊張されていたが氏の人を引き込む魅力的な人柄もあって大いに盛り上がり、興の乗った先生は弟子でもあり助手として参加されていた娘さんが驚くぐらいかなり多くの秘技、秘術を公開してくださった。

そんな中、幸運にも参加者の多くが文化系の方たちの中、ほぼ唯一の20代の武道経験者だったぼくは、必然的に実験台になりその技を肌で体験させていただくことができた。

「そこの君、ちょっと前に出てきて下さい。」

指名を受け何が始まるのか緊張しながらぼくが立ち上がると、氏はいくつかの不思議な技をぼくを台にしてみせて下さり、その後、

今、この方は体に気が通っていません。

と仰られ、気が通っていないとどうなるかを説明しだした。

説明をなんとなく聞きながしながら、ぼくはとにかく緊張を抜こうと誰でもするように少しゆっくり目に息を吐いて余分な力を抜いてみた。
別に特別なやり方をしたわけではないのだが(後年、俳優の榎木孝明氏が簡単な気を丹田に沈める方法というのをネットで観て、偶然、同じことをしたのだと分かった。)、その瞬間、氏は説明を止めて、

「あ、今、気が通りましたね。皆さん分かりますか??」

と仰られ、先程と同じ技を行ってぼくの反応が変わっていることを示し、それから空手の型である「三戦」を示演しながらそこで使われる「呼吸」をお腹の動きをもって見せてくださった。

「息吹」というのだろうか??特殊な呼吸法で息を吐き出すと宇城氏の水落が凹み、その凹んだ分、下腹が自然と膨らんでくる。

「これが武術の呼吸です!!」

と氏は仰った後、また色々と技をみせて下さったのだが、ぼくはこれと似たものを数ヶ月前の初等講座で岡島先生に見せていただいた事を思い出していた。

それが、調息整体の源流である野口整体に伝えられている「深息法」である。

「深息法」は元々は野口晴哉師の師である「人体ラジウム学会」の松本道別師の考案による呼吸法で、松本師によると「肺尖から下腹部まで隅々まで正気を充実させる呼吸法」なのだそうで、 岡島先生も野口師が

「整体指導者は気の集中力を高める行として、これを必ずこれをしなさいと言われていた3つの行法(深息法、数息観、気合術)の内の一つ。」

と紹介していたし、整体協会の機関誌である月刊全生で、あるコンサルタントの方が、

「操法は、初等の内容と深息法で事足りる。」

と野口師が仰っていたと書いておられた。
(いまいち効用が分からないが、とにかくすごいものらしいことは分かる。)

やり方は、

深息法
① 正座して姿勢を決め、唾液を溜める。
② 口から息を吸い、下腹を膨らませる。
③ 丹田が満ちたら、鼻から息を吸い、胸で息を吸いこむ。
④ 胸で吸い切ったら肩を上げ肺尖まで吸い上げる。
⑤ 肩を上げきったところで、その上がった胸が内部で落ちると同時に唾を飲み込む。
⑥ 胸と唾が下腹に落ちるのに合わせて「ウ~ム」と唱えて息を漏らし下腹に落す。
⑦ 「ウ~ム」の「ム」で落すのを止めて下腹を充実させたら、息をこらえる。
⑧ 適度な頃合で下腹を充実させたまま、鼻からゆっくりと細く息を吐く。


ヨガをやっていらっしゃる方ならお気づきかと思うが、前半部分が「完全呼吸法」とほぼ同じであることが分かる。ついでに簡易版であるとされる漏気法も記しておくと、

漏氣法
① 正座して息を下腹から胸まで吸い上げる。
② 吸い上げた息を「ウ~ム」と漏らして下腹に落とす。
③ 深息法の ⑦ ⑧と同じ。


と、深息法の後半部分になっている。

この漏気法、松本道別師の集大成である「霊学講座」にはなぜか記載がない。
ひょっとするとかなり古い日本に伝わる呼吸法で深息法の簡易版ではなく、松本師がヨガの完全呼吸法とこの漏気法を掛け合わせて深息法を作ったのではないかとぼくは考えている。

それはさておき、この深息法、この通りにやってみるとそれほど難しいものではない ・・・のだが、実はここに幾つかの条件がつく。
そしてこの条件を守らないと健康を害する危険性があり、また余り効果が見込めない

その条件とは

②で息を吸い込むときに、水落を固くしてはいけない。(むしろ凹んでいく。)
⑦で息を吐ききった際、「ム」のところで水落が凹んでいなければならない。

というもので、ここが宇城氏が三戦で見せて下さった呼吸とよく似ていると思った部分なのだが、水落を固くしない為には上半身が脱力していなければならないし、凹むようにしつつ下腹を充実させるには息んでしまっては絶対できない

岡島先生からは野口師は下腹を固めろとかではなく、とにかく、

脾腹(わき腹)を落せ

と仰っていたと成立するヒントを教えていただいたのだが、それでもこの条件を満たそうとすると、一気に難しくなるのだが、さらにもう一つ、水野先生がその昔、一宮氏という野口師のお弟子さんから「秘伝」(らしい、岡島先生からは聞いたことがない。)として聞いた、

一分以上かけて行う。

という条件までつくと、もう、とても難しいものになってしまう。

丹田を充実させる=腰椎3番に力が出る=決断力、行動力がつく

ということでもあるので、邪魔くさがりなぼくは、2年ほど前から暇をみては深息法を行するようにしているのだけど、やればやるほど迷路に迷い込んでしまった気分になってしまう、そして今一効果の実感がない??なかなか面白い呼吸法なのだ。